昨年、先着順のエントリーに間に合わず連続出場が途絶えてしまったこの大会に、今回は幸運にも出場することが出来た。
「幸運」と書いたのは、単に先着順のクリック合戦に勝利したからだけでは無い。故障など健康上の理由や他にも仕事などの諸事情で、やむを得ず出場権を手にしながらも出場出来ない選手もいるからだ。
今回も Facebook のあるグループのメンバーが、健康上の理由で残念ながら欠場せざるを得ないことを知った。その方は80kmからの素晴らしいロケーションのワッカで、すれ違うランナー達と声を掛け合い励まし合ってハイタッチするのを楽しみにしていたとのこと。
他にも、この大会には様々な思いで出場している選手が大勢いる。そんなことを思うと、この「サロマ湖100kmウルトラマラソン」では、浮かれてハシャイでばかりではいけない、一歩一歩丁寧に走りたい、という思いが強くなった。
【レース】
スタートは朝5時。湧別総合体育館は空一面雲で覆われていた。気温は10℃、少々肌寒いが風は無かった。最高気温の予想は15℃程度。走りやすい気象条件だ。スタート前30分ぐらいから整列していたが寒くは無かった。
前から3~4列目でスタートのカウントダウンを聞き‥号砲!
100kmの始まりはスムーズだった。
ブログ「“サロマ湖”1週間前」(2015.06.21.)に書いたように、今回は次の3つの目標を掲げていた。
①50km地点:4時間40分で通過(5km-28'00"を目安)
②ラスト20kmは2時間03分を切る!(出来れば2時間を切りたい!)
③目標タイム:9時間40分±10分
先ずは第一目標の50km-4時間40分を目指す。5キロ28分ペースは意識的に抑えないとオーバーペースになってしまう。3週間前の「柴又100K」では50kmを4時間30分で通過し、オーバーペースを経験していた。しかし、「サロマ」の前半は平坦なコースなので、ここでタイムの貯金もしておきたいので、50km通過は少々速くなっても構わない。だが、前半で脚にダメージを溜めないように充分に気を付けた。
「ダメージを溜めないこと」‥とにかくフォームに細心の注意を注ぎ込んだ。
・路面と喧嘩しないこと。
・路面を滑らかに後方へ送り出すこと。
・前後、左右のバランスと重心移動に気を付けること。
などだが、特に左右のバランスにはいつも以上に気を付けた。「柴又」では左脚に充分に乗れなかったことから股関節にダメージを蓄積させてしまったので、同じ失敗はしない!
バランスは、微妙な路面のアップダウンと左右方向の傾斜で容易に崩されてしまう。重心が一歩一歩ピンポイントで正しい位置に乗り込んでいるかを確かめながら、筋肉の緊張度と関節周囲の衝撃の大きさを感じる。身体のダメージは、絶えず「心の眼」で身体を監視していないと予兆に気付かずに手遅れになるモノだ。
「集中!」
っと、自分に言い聞かせるが、フォームにばかり集中しているとついついペースが速くなる。また、沿道で応援して下さる方々には、一人でも多く手を挙げて応えたい‥
走る難しさを改めて感じる。だから面白いのだが‥
曇り空は、予想以上にワタクシにとってラッキーだったかもしれない。周囲の景色をほとんど観ていなかったのだ。時折広々とした畑やサロマ湖畔の風景を眺めていたが、路面の変化の観察に集中することが出来た。
その一方で、知り合いの選手と言葉を交わしたり、大自然の雰囲気を全身で楽しむことも出来ていた。
レース展開は、やはり入りでペースアップしてしまった。これは、調整が上手くいった証拠でもあるのだが、脚がクルクルと回ってしまう。意識的に抑えていても、予定よりも速くなっていたが「タイムの貯金」になるので、10kmまでは貯金を貯め込んだ。しかし、10kmを過ぎてからは
「これで、80km以降を苦痛なく走れるのか?」
っと、繰り返し自分に問いかけて無理やり抑えた。
たぶん、調子が良かったのだろう。かなり「身体との対話」に集中していたけれど、ダメージを感じずに50kmを通過。4時間33分は予定よりも速かったが、「体力の借金」を貯めずに通過していたので、第一目標は達成だ。
コースは、54.5kmのレストステーションを前にして大きくアップダウンするが、長い下りは要注意だ!接地の衝撃が大きくなるのでゆっくりとユックリと、途中で10m程の歩きを入れて関節周囲の緊張を緩めながら下った。これは、あらかじめ決めていた行動だった。
レストステーションは3分も掛らなかっただろう。ドロップバックからグッショリと濡らしたオシボリを取り出し大腿部を濡らしてから顔と首すじを拭く。補給食を入れたレジ袋を取り出し、不要になった手袋とウエストバッグ(緊急用のティッシュ、絆創膏:順調なので不要と判断)は置いて行く。
「あってもなくても良いモノは無い方が良い」
補給と給水をサッサと済ませてコースへ進んだ。
今回はレース前半から、全てのエイドステーションで少しづつ固形物も補給していたので、ここで改めてガッチリ補給する必要は無い。「柴又」で経験済だ。
レストステーションを過ぎ、55kmを過ぎると長い下りが始まるのだが、ここが最大のポイントだと考えていた。この長い下りは大きなダメージを受け、終盤の走りに大きく影響するのだが、完走タイムを予想してペースアップしたくなる場所でもあり、好調な時ほどズルズルとオーバーペースに引きずり込まれる
「魔の誘惑ポイント」
だ。
そしてここでも、誘惑に屈しないための作戦通りの行動を取った。しばらく下ってから歩いたのだが、ただ歩くのではない。レストステーションで手にしたレジ袋に入れた補給食をモグモグと摂る。どうせ歩くのならば補給を摂りながらの方が賢いだろう。この戦略があったので、レストステーションは短時間で通過したのだった。この歩きを長い下り坂で2回に分けて行った。
こうして、最大の難関を予定通りにクリアしたのだ。
60km以降は第二目標を意識した。
「80km以降を2時間以内で走る!」
そのためには、ここからをどのように走ればイイかを考えた。もちろん、総合タイムも少しでも速くなりたかったので、ペースダウンには勇気が必要だった。そんなことを考えながら、
「脚の調子に合わせて無理しない程度に体力を温存しよう」
と思ったのだが、ここで脚が回らなくなってきた。
長い下り坂を自重して下ったつもりだったが、それでも
「下りでダメージを受けたのか?」
それとも
「体力的にこの程度なのだろうか?」
とにかく脚の回転が思うように上がらなくなってしまった。こんな時こそフォームをチェックする。無駄の無いバランスの取れた楽なフォームと、筋肉と関節周囲に無駄な緊張が無いかを「心の眼」で確認し感じ取る。
体調を
「イメージ通りに80km以降を走れるように」
整えようと考えたが、これは数字で計れるモノではなかった。経験だ。「柴又」の感覚を思い出して現状と比べてみた。
コースは
「魔女の森」
とも呼ばれている林に入った。カラスの鳴き声に混じって、カッコウも鳴いていた。白樺や大きなフキ、木漏れ日が緑の中の一筋のアスファルトを照らしていた。リフレッシュしていた。大自然を感じながら、小学校の校歌の一節を思い出してもいた‥
♪見よ偉大なる自然相♪
♪聞け無声なる神の声♪
そう言えば、この校歌にはこんな詞もあった‥
♪塵も積もれば山となり 露の雫も川となる♪
♪いざや進まん一歩より 理想は高し‥♪
ウルトラマラソンにどんぴしゃりである。
多少のペースダウンは止むを得なかったが、大きく落ち込むこと無く80km地点を迎えることが出来た。
ワッカに入った。一部に青空がのぞいていた。青い海を見渡してロケーションを満喫した。しかし、ここからが今回最大の重要ポイント。
「ラスト20kmで2時間を切る」
ために、ここまで延々と計画通りに黙々と我慢しながらやって来たのだ。
その甲斐あって、脚を苦痛無く回すことが出来た。時計を見て計算する。5kmを30分かけないペースで走れば第二目標も第三目標も達成出来る。
「自己ベスト更新は?」
80kmを過ぎて初めて自己ベストを考えたが、即、断念した。まだ20kmあるから可能性はゼロでは無かったが、体調と残り時間を計算するとかなり困難だと判断し、一か八かの賭けはしないことにした。
潔く判断できたのは、今回は何よりもこのワッカを苦痛なく走りたかったからである。Facebook で知った、出場出来なくなってしまった方を思い出し、気持ち良く走ろうと決意を新たにして一歩一歩を丁寧に踏みしめた。そしてこの場所を走っている幸せを感じた。
ワッカは折り返しコースなので、細いコースなのだが対面通行である。今回、ここでFacebook のグループで決めた目印で、初めて会う方と合言葉とハイタッチを交わすことも出来た。
90km手前で折り返すと知り合いに追いついた。ナンバーカード「1」のあの方だ。一言、二言、言葉を交わして先に進んだが、背後から
「出し切れ!」
「出し切った方が気持ちイイぞ!」
っと発破をかけられた。
不思議な力を感じていた。大勢の方の想いを想像してワッカを走っていたところに、知人からの激励。他にも応援して下さった方々を思い出しているうちに身体が軽くなっていたような気がした。
イメージ通りに走っていた。ラスト5kmを過ぎると1km毎の表示も残りの距離に変わる。もう潰れるつもりでペースアップ出来る距離だ。最後のエイドステーションは素通りする。もう補給も給水も必要無かった。
苦痛なく軽快に走っていた。ラスト2kmで更にペースアップ。フィニッシュ会場が近づいて来た。ヴィクトリーロードは道幅の広い直線。すべてを出し切るように更にペースアップして、直角に右へ曲がるとそこがフィニッシュ地点だ。大きなデジタル時計の数字を見ると9時間28分だった。
脱帽して一気にフィニッシュラインを駆け抜けた(第二目標、第三目標クリア)!
そして回れ右、一礼。感謝。
記録は9時間28分43秒。100kmのベストタイムよりも4分遅いセカンドベストだが、コースのアップダウンを考えれば「柴又」で記録したベストタイム以上の記録だろうか?
面白いようにシナリオ通りにレース展開が出来たが、これは3週間前の「柴又100K」の経験を巧く活かせたのが大きかったと思う。
今回は、左アキレス腱痛を抱えながらの出場で、万全なトレーニングで臨めなかったのだが、そんな条件のもとでもこれだけのレースが出来たので、とても満足している。
50歳での自己ベスト更新は、またの機会になってしまったが、それはそれで楽しみが先に延びただけだと思うことにしよう。
大会を支えて下さった方々と、応援して下さった方々、一緒に走った選手の方々、そしてこの大会に思いを寄せて下さった方々に感謝して、今回の参戦記を終わりに致します。
有り難う御座いました。
スナップ(撮影:ランフォト2.0/ランフォト)
コメントをお書きください
ランラン (木曜日, 02 7月 2015 19:22)
感動的な大会参戦記だと思いました。また、大会に臨む態度が誠実なことにも感心しました。立派だと思います。そして、緻密で計画的なレース運びとサブ9.5という記録にも感服しました。
とても参考にもなり、見習いたいとも思います。
読ませて頂いて感謝しています。
栗田浩三 (木曜日, 02 7月 2015 22:39)
ランランさん、
コメント有り難うございます。
少しでもお役に立てたら嬉しいです。
これからも、大会参戦記を書き続けたいと思っていますので宜しくお願い致します。
栗田 浩三 (日曜日, 05 7月 2015 06:31)
参考:http://maromaro225.blog.fc2.com/
http://ameblo.jp/junichiokubo/
ウルト・ラン・マン (土曜日, 11 6月 2016 17:45)
2016年、第31回サロマ湖100kmウルトラマラソンに出ますが、とても参考になります。4回目ですが、毎回後半に潰れていたので、栗田様のペース配分と下りで歩きを入れる作戦を、自分のペースで真似させてもらいます。サブ11が目標ですが、サブ10の栗田様でも歩きを入れていると知り、自分も冷静に歩きを使いたいと思います。
栗田 浩三 (土曜日, 11 6月 2016 22:21)
ウルト・ラン・マンさん、
コメント有難うございます!
サロマのポイントは、長い下りでダメージを最小限にすることだと思っています。レストステーションで小休止した後だけに、スピードを出してしまいがちですが、そうすると後半で必ずシッペ返しが来るので気を付けましょうネ!
コメントを頂いたお陰で、ワタクシも昨年の様子を思い出すことが出来ました。ワタクシにとっても、とても参考になりました。
有難うございました。
(*^◇^*)