【レースまで】
今シーズンのマラソンは、このレース1本に絞った。理由は慢性の左アキレス腱痛が続いていたからである。昨シーズンは痛みを感じながら12月に“湘南国際マラソン”に出場してアキレス腱を悪化させてしまい、本命の“別府大分毎日マラソン”を棄権することになってしまったので、その教訓もあった。言い方を変えれば、左アキレス腱はそんな調子だったのだ。
トレーニングは量を減らしたり、アキレス腱の様子をみながらメニューを変更したり‥スピードを上げてのインターバルはアキレス腱への負担が強いのでペース走へ変更することが多くなった‥といった具合で、理想的なトレーニングメニューをこなせなかったのだが、ワタクシなりに自分に厳しく精進したと思っている。
‥ところが、その実態は、当初の目標の
「4'00"/km で42.195kmを走る(2°48’46”)!」
ことは無理だと判断せざるを得ない内容で、スピードを出したくても脚を速く回せない状態が続いていた。平日のジョギングもアキレス腱痛のため回数を減らしたので、1月の月間走行距離は300kmを超えた程度でレース前にしては少な過ぎた(体重も落とせなかった)。
年末年始休暇からのポイント練習‥
・ペース走 30km:1回
20km~25km走:5回
10km~15km走:3回
・インターバル 5km×3:1回
1km,2km×3~5回:5回
・LSD 25km:1回
35km:1回
ペース走を行った日は風が強い日が多かったので、風の影響が無ければどのくらいで走れたのかは不明。その為、レースのペースをどう設定するかを決め兼ねたまま本番に臨むことになってしまったが、大よそ2時間55分で完走できれば良い方だと推測していた。しかし一方で、時計を気にするよりも体の感じで42.195kmをギリギリ走り切れるペースで走った方がイイとも考えていた(「ギリギリ」の感覚は練習で習得できているという自信があった)。そもそも、コースにはアップダウンがあり風の影響も受けるから、
「体感的にイーブンペースで走るのが一番だ」!
と、開き直って考える様にしていた。
【レース】
雨上がりの空気は適度に湿り呼吸しやすかった。レース中の気温は11℃~14℃になる予報で暑くも寒くも無く、風も穏やかで日差しの無いコンディション。
寒さに弱いので、半袖のウェアーを着たがアームウォーマーは使わなかった。手袋も要らなかっただろうがエネルギージェルを忍ばせるために使うことにした(途中で外しても捨ててもイイと思っていた)。ランニングパンツとゲーター(左アキレス腱と右フクラハギ肉離れの古傷は冷やしたくない)とソックスを履き、サングラスとキャップは使わなかった。ランニングウォッチはセイコー・スーパーランナーズ。そして、相棒の赤いシューズはアシック・ターサージール5(ワイド)だった。
戦闘装備はこれで充分!スタートを切った!
しばらくは混雑した中を周囲の選手と接触しないように注意しながら走ったのだが、同レベルの集団なのでストレスは少なかった。集団の流れに乗ると1km地点を3分40秒ぐらいで通過していた。スタートから5km地点近くまでは下りが続くので、ゆっくり走っていてもペースは速くなり呼吸は上がっていないのに4'00"/kmペースを切っていた。
4km地点を過ぎると、混雑が緩和されてきた。下り続けていたので着地のダメージを最小限にするようにフォームをチェックしながらマイペースを確認した。
「身体の状態を感じながら走る!」
のが、今回の課題だった。
・無理していないか?
・楽していないか?
・フィニッシュまで続けられるか?
‥などを常に確認していた。
スタートから5km地点のラップは意外に速かったが参考程度にしか思わずに、身体の状態を感じることに集中していた。
「フィニッシュまで続けられるか?」
(start~5km:19'43":グロス)
5km地点を過ぎた時から残りの距離のカウントダウンを始めた。
「あと37km!」
‥いつもであれば距離をカウントダウンするのは30kmか35kmを過ぎてからで、それまでは5km毎のラップタイムを設定通りに通過することを意識するのだが、今回はラップタイムを気にせずに、ずっと身体の状態と残りの距離とを意識することにした‥
別府まで下った辺りから雨が降り出し、パラパラと雨粒が顔に当たっていた。予報と違う気象なのですぐにやむだろうと思っていたが、しばらくは顔に当たる雨を鬱陶しく感じて手袋で拭いながら走っていた(手袋が役立った!)。路面の僅かな轍には水が薄っすらと溜まっていたので避けながら、緩やかなカーブを繰り返すコースの内側を結ぶ最短距離を狙った。コースは全体に、真っ平らな直線は意外と少なく微妙なアップダウンと交差点以外にもカーブが多い。ウッカリしているとすぐにフォームを狂わされてしまうので集中力が必要だった。
賑やかな別府駅を後にして第一折り返し地点へ近づくと大きなアップダウンが待っていた。まだダメージが無い序盤だが脚へダメージを与えたくなかったので下りは意識的にストライドを狭くしてピッチを上げて走った。着地時の重心の位置、潰されないようにシッカリと膝を伸ばす‥周囲の選手たちに随分と追い抜かれたが、これがマイペースだと言い聞かせて自信をもって追い抜かれながら急な坂を下った。そして第1折り返し点をUターンした。今度は一変、登り坂だ。そして10km地点を通過。
(5km~10km:20’00”)
登りでは着地時の衝撃は小さくなる。心拍数は上がってしまうがピッチを上げた。
大きなアップダウンを過ぎてからも緩やかに長い下りが続いた。ここでもフォームを下り坂に合わせてストライドとピッチを調整し衝撃を最小限に抑えるように気を付けた。走り込みが不充分だと自覚していたので、後半に備えてとにかくダメージを受けない走りを心掛けた。
(10km~15km:20'11")
いつの間にか雨は気にならなくなっていた。復路でも別府駅周辺では大勢の方々が声援を送ってくださった。励みになったが、調子に乗らないように身体の状態を観察し続けた。狭いストライドでピッチを上げていたのでハムストリングスに張り感が出てきたが、大したモノではないと感覚的に分かった。そしてスタート地点の「うみたまご」へ向かうが、今度は登り坂になった。上り坂の方が着地の衝撃が少ないので思い切り走れた。
(15km~20km:20'05")
広々とした片側3車線のコースと左手に広がる別府湾へと視界が広がる。清々とした開放感で気持ち良く走れた。カーブとアップダウンを繰り返しながら広く整備された路面が続く‥贅沢な気持ちと感謝の気持ちで一杯になった。
気持ちの良さからか?脚が回り始めた。中間点(1°24'20")を過ぎていたのでダメージを感じ始めても不思議じゃないのに、逆に調子が上がってきたのだ!が、今回のレースではこの辺りだけが風の影響を強く感じたので、前方の自分のペースに合った選手を選んで風除けを変えながら体力を温存した。
(20km~25km:19'51")
25km地点を過ぎるとコースは海岸沿いから離れ風の影響は少なくなった。この辺りからは平坦だったので、一定のリズムに乗って走っていたが、徐々に不安な気持ちも襲ってきた。
「本当にこれでフィニッシュまでモツのか?」
ペースダウンしてもおかしく無い所までレースが進んできたのに、予想以上に速いペースでここまできたのが心配になったのだ。しかし、身体を心の目で観察しても問題無かったので、それまで通りの感覚で走り続けた。
(25km~30km:19’58”)
30kmを過ぎてから、恐怖心が大きくなってきた。
「意識的にペースダウンすべきだろう?」
「このままじゃ40km辺りで大ブレーキが掛かっちゃうかも!?」
‥自信が持てなかったのはレース前1ヶ月の走行距離が少なかったからだろう。
心の中で「勇気」と「向上心」という、いつもの言葉を繰り返していた。呼吸に合わせて、
「勇気!と、向上心!」
「勇気!と、向上心!」
「勇気!と、向上心!」
‥‥
‥
と、何度も何度も繰り返していたが、途中から
「勇気!勇気!」
「勇気!勇気!」
「勇気!勇気!」
‥‥
‥
っと、弱気にならないように自分を鼓舞する様になっていた。
レース前に受けた応援や、励ましてくださった方々を思い出した。
しかし、一方で、我武者羅に力を出し過ぎても最後で潰れちゃダメなんだと、自重する気持ちもしっかりと持っていた。
「集中!集中!集中!」
っと、体の状態を観察した。そして
「42.195kmを『ギリギリ』走り切るペースはこれだ!」
っと信じたペースで走っていた。
・無理していないか?
・楽していないか?
・フィニッシュまで続けられるか?
そしてフォームにも細心の注意を注いだ。ラストスパートするエネルギーを少しでも温存できるようにロスの少ないフォームでその時を待っていた。
第2折り返し地点をUターンして35kmを通過した。
(30km~35km:20'24")
35km地点でラップを計った時に、今回のフィニッシュタイムを初めて意識し、
「ハッ‼」
っとした。
「ひょっとして2時間55分、切っちゃうのか!?」
ラップタイムを参考程度にみてきたのだが、完走タイムは全く計算していなかったので、予想を上回る走りにビックリしたのだった。‥とにかく身体の状態を観察することに集中していたからなのだが‥
まだ7km以上あるので、安心はできなかった。
残りの距離と身体の状態とを天秤にかけて走り続けたが、さすがにキツくなってきていた。
周囲にも遅れだす選手が出てきたが、逆にペースアップする選手もいた。そんな中で、前方から大きな喘ぎ声をあげながら苦しそうに走っている選手の背中が近づいてきた。
かなり苦しそうでペースダウンしていたと思うのだが、その背中がなかなか近づいてこない。あんなに苦しんでいるのにスッと追い抜けないとは!?それでもようやくラスト4km地点でその選手を追い抜いたが、今度はその声がなかなか遠ざからない。早く振り切りたいとペースアップしているつもりだったが、こちらも苦しくなっていた。
共に闘っているのだと感じた。ワタクシだけではなく、周囲の選手もみんな同じフィニッシュを目指して同じように苦しんでいるのだと思いながら「ギリギリ」のペースで走っていた。
(35km~40km:20'36")
40kmを過ぎたら、もう出すだけだった。呼吸に声が混じり大きくなっていた。あの選手の喘ぎ声もついて来ていたが、いくらか遠のいていた。しっかりと路面に脚を打ち下ろし、反発力を推進力に利用した。
ここまで来たら「心技体」のフル動員だった。
「もう怖くない、行け!行け!行け!」
けれど、
「雑に走るな!テクニックだ!」
そして、
「脚は動いている!速く回せるから回せ!」
ここでも、応援して下さった方々を思い出していた。メールにFacebook、応援の言葉とガッチリ握手も‥心が熱くなった。
そして陸上競技場へ入るとラストスパート!
喘ぎ声をあげながら全精力を振り絞った‥視界が白くなっていた‥
ホームストレートでも前の選手をかなり追い抜いたと思う。そして、フィニッシュラインは一気に駆け抜けた。
(40km~42.195km:8'51" // total:2°49'39")
click!⇒ランナーズアップデート
振り返って一礼し、喘ぎ声が混じった呼吸を続けていると、すぐにあの大きな喘ぎ声の選手もフィニッシュしてきたので、思わず、
「ナイスラン!頑張っていたから負けちゃいけないと思って頑張れました!」
「有難うございました!励まされました!」
っと、スキンヘッドのその選手に、手を差し伸ばして声を掛けた。
本当に素晴らしい選手だと感じた。タイムや順位だけではない。どれだけ出し切ったかに感動するのだ。
“別府大分毎日マラソン”はワタクシにとっては、最高、最大の舞台である。そんな大会で、自己ベストから2分20秒遅いとは言え、予想を上回るタイムを記録できたことを誇りに感じています。
大会を支えてくださった皆様。応援して下さった皆様。一緒に走り闘った選手の皆さん!有難うございました。感謝してお礼を申し上げます。
51歳でも2時間50分を切ることができて満足している。そして今、更に上を目指そうとしているワタクシ‥どうにもならないこの気持ちは何ナンだろうかぁ?
完
※こちらも是非⇒ブログ2017.02.13.「“別大マラソン”こぼれ話!」
(観光のスナップも載っています。)
「オールスポーツ」さんの写真
(写真中央の「✖」をクリックすると拡大します)
↓↓↓
【スナップ】
↓↓↓ レース前日 ↓↓↓
↓↓↓ レース当日 スタート地点「うみたまご」 ↓↓↓
↓↓↓ レース当日 フィニッシュ地点「大分市営陸上競技場」 ↓↓↓
コメントをお書きください
栗田真一 (木曜日, 09 2月 2017 11:14)
感動しました。
励まされたよ。
俺も頑張らないとね。
栗田 浩三 (木曜日, 09 2月 2017 22:40)
栗田真一さん、
兄上に鍛えられたお陰です。
田嶋聖子 (金曜日, 10 2月 2017 22:08)
別大は 友達もたくさん行ったレース
思わず一気読みさせていただき
ウルウルきました
「タイムや順位より
どれだけ出し切ったか」
ほんとに そう思います
レベルは全然違いますが
私も昨シーズン 11月に肉離れし 自己ベスト更新どころか3大会DNSという 辛い時期があり
今シーズンの練習も スピード出すとまたなるんじゃないかと 怖さがいまだ続いてます
しんどくないか
楽してないか
と問いながら
勇気勇気と言い聞かせての
ゴール
感動しました
姫路に向け もうそんなに時間ありませんが 私も勇気もって進んでみます
いいもん 読ませてもらいましたーー
ありがとうございましたー
栗田 浩三 (金曜日, 10 2月 2017 22:52)
田嶋聖子さん、
コメント有り難うございます!
ワタクシも2012年の「別大マラソン」のラストスパートで肉離れしてしまい。1年半以上スピードを出して走れない時期がありました。
そんな経験も糧となって、「今」を大切にしようと思う気持ちが増したと思っています。
「姫路!」納得できる走りができますように、ご健闘をお祈り致します!
韋駄天丼 (土曜日, 11 2月 2017 19:05)
とにかく素晴らしい!感動スポ根ドラマです!!
禁酒を決意して大会に備えて、全部出し切った姿に感動し、ゴール後に喘いで走っていた選手を称えて声を掛けた場面にもドラマを感じました。
さすが、別府大分マラソンです。
自分も少しでもまねしてみようと決心しました。(禁酒は出来ないとおもいますが、、、)
栗田 浩三 (日曜日, 12 2月 2017 16:59)
韋駄天丼さん、
コメント有り難うございます。
自分で書けば、ワタクシのようなモノでも「スポ根!」ドラマの主人公になれます。
レース前の練習期間からドラマが始まります。誰もがそのドラマの主役であり、レース中に感動的に展開されています。クライマックスをいかに盛り上げるかは「どれだけ出し切れたか」です。
レースの感動は結果よりも頑張りに比例すると思っています。
レベルは無関係で、「どれだけ出し切ったか」でしょ?それがスポーツの醍醐味だと思います。